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”個の力”を磨く4年間を ー住友商事㈱ 室伏一郎さん-

今回は、日本を代表する総合商社で、20年以上にわたり活躍されている室伏一郎さんに、ご登場いただきました。

-室伏さんには、現場での豊富なご経験を踏まえ、企業社会ではこういう能力が求められている、こういう人間がほしい、こういう人間ならば企業で活躍できる、というお話を伺えればと思います。

室伏氏(以下、室伏):今年で、入社23年目となりますが、今と昔では仕事の在りようがまったく変わってきています。かつて商社は、日本メーカーの製品を海外に売り込むことで発展してきた面があります。円高、円安などの国際環境の変化の中で、英語力や海外の知見を駆使し、海外への輸出のお世話をすることが過去の商社の役割でした。現在は、メーカーも生産をグローバル化し自社の力で輸出・マーケティング・リテールまですべてできてしまいます。商社も変わらなければならないわけです。今は、自分の組織に関して言えばメーカーと市場を繋ぐ所謂「川中」ビジネスである貿易の仕事は皆無に近く、より市場に入り込んだ所謂「川下」ビジネスにシフトしています。アメリカ、ヨーロッパ、ロシアなどに出資して会社、代理店を作り、そこでメーカーの商品を販売するという事業投資です。そしてそこに経営幹部として本社から人を派遣して事業経営を行い、日本ではその会社の事業管理、業績管理をする事が、商社のビジネススタイルの主流となっています。日本での仕事は、どんどん減っています。

-となると、入社してくる若い人に与えられる仕事も、室伏さんの入社当時とは相当違いますね。
室伏:当時は、右も左もわからないような新入社員に、上からどんどん仕事が降ってきました。朝も晩もなく、目が回るほど忙しい毎日でした。ところが、海外駐在・出向を経て2013年に本部に戻ってきたら、事務所は静かで電話がかかるようなことも少なく、連絡はみんなEメールで済ませるようになっていました。ただ、仕事の量が減ってはきましたが、個人に求められる生産性は高くなりました。つまり、一人当たり稼がなければならない収益の額が桁違いに変わってきました。考えなくても目の前の仕事を片付けてさえいればよかった私たちの時代は、ある意味楽でしたが、今は、自分で何をしなければならないか考えなければ、落ちこぼれます。プロアクティブさが、以前以上に求められていることは確かですね。

-メールの普及は、仕事にかなりの変化をもたらしましたね。
室伏:メールは、言いたいことを洩れなく間違いなく記しておけるという利点がある一方で、若い人たちは多用し過ぎている感が否めません。実際の会話なら、相手の反応を見つつ次の言葉を考えるものですが、そのような会話のキャッチボールをしなくなり、会話力、コミュニケーション力が弱くなっていると思います。高度経済成長の時期は、みんな一緒のことをやっていればよかったし、出る杭は打たれたものです。今は、それでは埋もれてしまう。出る杭にならないと蹴落とされてしまうんですね。自分をどれだけアピールできるか、それも相手の意見をしっかりと聞きながら、自分の意見を必要な時にはっきり言う。プロアクティブさをうまく打ち出していける相互コミュニケーション能力を持った人材。そういった人材が今は求められます。

-コミュニケーション能力が大切だということですね。さらに今は、重要視されるスキルとして、英語力があると思いますがいかがでしょうか。
室伏:英語力は基本ですね。しかしそれは、コミュニケーション能力がベースになってのことだと思います。実は英語力とは、TOEFLやTOEICの点数では測れないものです。実際、TOEIC 500、600点だった私の部下が、英文メールに悪戦苦闘しているTOEIC 980点の社員を指導したりしています。英語力とは、日本語で伝えたいことをどれだけ英語で相手に伝えられるか、ということだと思います。

-おっしゃる通りですね。これほど求められる人材が変わっていくのであれば、当然、大学での学びも、変わらないわけにはいきません。開智国際大学では、これまで学生がどうしても受け身になりがちだった学びのスタイルを、アクティブなものに変えていっています。そのひとつが相互通行型授業です。
室伏:素晴らしいですね。従来型の授業で形式的に知識を詰め込み、首尾よく一流大学、一流企業に入っても、環境適応能力がなくてうまくやっていけないことが、ままあります。頭がいいのと、ただ勉強ができるのとでは、別次元の話ですから。授業のなかで、知識を一方的に詰め込むのではなく、その事実の背景、成り立ちなどに対し、いろんな人の意見を聞かせたり、自分自身の答えを見出させたりというインタラクティブな、つまり相互作用、双方向型なやり方をしていくと、おのずから人の意見を聞き、自分の考えも述べられるようになっていきます。コミュニケーション能力が高まり、当然、環境に適応するのも苦ではなくなると思います。

-環境適応能力も大切なファクターですね。
室伏:実は、日本において一流企業と呼ばれる企業というのは、全体のわずか1%にも満たない数で、あとは中小企業です。そういう日本の産業構造において、どんな環境でも適応できる人間が、これからの日本社会の一翼を担い、盛り上げていけるのだと思います。

-企業社会で通用するようになるのは、なかなか大変なことだと感じます。
室伏:昔は自分のやった仕事が“紙”で見られてわかりやすかったですが、今は、バーチャルというか、すべてコンピューターで管理されるようになり、自分のやった仕事がいくら儲けたのかも見えづらくなっています。自分は何も手を動かしていないのに、期末には利益が上がる。この仕事って、何だろう、自分は何のためにここで働き、何で給料をもらっているのだろうと分からなくなってくることがあります。こんな時代だからこそ、“個の力”が試されると思います。社会に出る学生には、多くの人と出会い、いろいろな価値観の存在を知り、あらゆる経験をすることで、自分自身を磨いてほしいと思います。インターンシップをするもよし、町の中小企業で、いわば丁稚奉公させてもらうのもよいと思いますね。若い人に、個の力を身に付けてもらうのは、社会人の先輩である私たちの課題でもあります。

-社会に出て、体験的に学び取る力が身に付いていれば、専門分野を専攻していなくても特に問題はないのでしょうか。
室伏:問題ないと思います。ビジネス業界でも、昔ほどMBA取得を目指す社員は多くないと思います。特に商社は、個の力といっても、個で突出するわけではなく、個の力を組織へフィードバックしていくことを求められますからね。

-簡単な仕事は国内外で機械化・アウトソーシング化され、国内での仕事はまさにクオリティの勝負となってきていると理解しています。さらなる能力が求められてくると考えますが。
室伏:情報化社会の波は無視できません。これからは情報に敏感で、その情報を組織の中にインテグレート(統合、調和)できる能力が鍵になるのではないでしょうか。それには、やはり人一倍好奇心を持ち、知ることに貪欲になることですね。ネットだけではない、書籍や漫画だっていいと思います。人との対話からも情報は得られます。さまざまなツールや機会を活用して情報を得ることが大事ですね。知ること・学ぶことに対して貪欲になるような教育ができる大学がいいですね。

-とても参考になりました。貴重なお話をありがとうございました。
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by Kaichi-university | 2015-07-31 09:00 | 大学の智とは